文部科学省によると、精神疾患の理由から休職している公立学校の教員の数は、2019年度に5,478人と発表されました。
過去最高だそうです。
5,478人は、全体の約0.59%にあたります。
実は、休職者数はこの10年ほど、ずっと5,000人前後で推移しています。
私には教員の知人が多くいますが、実際の感覚ではもう少し多くの割合で休んでいる先生がいると感じます。
なぜ、教員の休職者が多いのか、その原因について解説していきます。
併せて、少しでも教員の負担が減るような改善方法も提示します。
なお、この記事は現役小学校教員の助言に基づき作成しています。
教員がうつになりやすい理由とは?
まずは、教員が精神疾患になりやすい理由から解説していきます。
長時間労働
長時間労働なんて、どこも同じだ、と思うかもしれません。
教員にも定時はあります。
概ねですが、8:10~16:35くらいです。
一般企業よりも、始まりが早くてその分終わりも早いというイメージです。
しかし、これはあくまで定時です。
実際、8:10出勤では間に合いません。
なぜなら、子どもたち登校して教室に来る時間だからです。
そして、16:35についても子どもを下校させる時間とほぼ同じです。
つまり、子どもが学校にいる時間を定時として設定されているのです。
当然ながら、子どもがいる時間は授業があります。
そこで出たプリント類や、子どもへの配布物の作成などは全て子どもたちが帰ってから取り掛かります。
ちなみに、教員の休憩時間は制度上存在していますが、実際には取ることはできません。
お昼の時間も、子どもたちと過ごすため、監督しなければなりません。
つまり、実質の休憩時間はないのです。
しかも、残業代は支給されません。
どれだけやっても、基本給の3%で固定されています。
一般企業でも、時間外労働は当たり前かもしれません。
しかし、どれだけ働いてもプラス10,000円程度しか支給されないのであれば、それはとんでもないブラック企業です。
しかし、残念ながら教員はその環境下で働いています。
持ち帰り仕事も当たり前です。
毎日遅くまで働いても、仕事は終わりません。
多くの教員が、自宅に持ち帰って仕事をしています。
土日も必ずどちらかは出勤しています。
これが、教員が心を壊してしまう大きな要因の一つです。
担任一人ですべてやりくり
教師は非常に孤独な仕事です。
学年というグループはあるものの、基本的には授業はすべて一人で行います。
学級経営も、担任が一人で行います。
同じ学年の先生に相談することはできますが、目の前で対応するのは常に一人です。
保護者対応も、基本的には担任が一人で行います。
一般的な仕事の場合、判断に迷った時は同僚や上司に判断を委ねられます。
回答を保留することもできるでしょう。
しかし、教員は日々目の前で起きることを一人で対処しなければならないため、精神的な負担がとても大きいのです。
新しい制度が次から次にやってくる
教員の授業や指導の大きな指針となるものが、文部科学省が作成する学習指導要領です。
学習指導要領は、平成29年度に大幅に改正され令和2年度から小・中学校で施行されました。
目まぐるしく変わる社会情勢に合わせて、求められる人材像も変化します。
経済界からの要請もあり、学校の指導方針も大きく変わります。
外から見ていると見えてきませんが、学習指導要領が変わると、教え方もガラリと変わります。
同じ題材を扱っていても、指導の仕方やアプローチの仕方がガラリと変わるのです。
今回の学習指導要領の大きな変化の一つが、子どもによる主体的な学びです。
自ら考え行動できる児童生徒を育成するため、評価の観点に「主体的に学習に取り組む態度」が導入されました。
これまでのように、知識や思考を問うだけでなく、さらにそれらを使って子どもたちが粘り強く調整しながら学習に臨む態度を育成しなければならないのです。
子どもたち同士で話し合う時間も大幅に増えました。
更に、ここにきてGIGAスクール構想やコロナ禍によるオンライン学習など、はっきり言って教育現場は全然追い付けていません。
新しいことが次から次にトップダウンで降ってくる教育現場は、とても過酷なのです。
保護者には細心の注意が必要
モンスターペアレントという言葉が、だいぶ使い古されてきた感がありますが、厄介な保護者が増えているのは確かです。
クラス分けに口を挟んだり、先生の授業のやり方を指摘したりするなど、保護者からの要望は多様化しています。
当然ながら、子ども同士のいじめや人間関係などについても常に親の姿を意識しながら対応することになります。
さらに、ここでもコロナ禍特有の問題があります。
感染対策に過敏な保護者や、子どもを通わせないようにする家庭もあります。
もちろん、認められた権利ではありますが、保護者対応が先生の心をすり減らしているのもまた事実でしょう。
休みづらい
小学校であれば、1日の授業を一人の担任で回します。
図工や家庭科など一部の科目は別の先生が受け持つこともありますが、仮に学校を休もうもうとすると、その分の代替の先生を充てなければなりません。
そこ辺りの調整は、担任が自分ですることになります。
急に休めば誰かに迷惑をかけると思うと、体調が悪くてもなかなか休めません。
今はコロナでさすがに無理ですが、以前は38度以上の熱でも出勤する先生はザラでした。
体調が不安定なまま勤務し続けることは、長期的に見ると精神面にも大きな負担になります。
教員のうつは、2学期は気をつけて
ところで、教員がうつになりやすい時期はあるのでしょうか?
教員にも五月病がある
一般的に、ゴールデンウィークが終わった頃に職場に行きたくなくなるのが五月病です。
五月病は、教員の世界にもあります。
教員は、3月からゴールデンウィークまでは教員はずっと走りっぱなしです。
学年の締めから新学年スタート、家庭訪問や授業参観などが一気に押し寄せて、ゴールデンウィークを挟むと一気に職場に行きたくなくなるのです。
2学期は気をつけて
しかし、教員で最も気をつけるべきは2学期です。
理由の一つは、夏休みという大きな休みを経てからの、長い長い2学期は教員にとって大きな負担になるからです。
2学期は運動会や各種行事が目白押しで、教員の負担はとても大きいです。
さらに、子どもたちにも変化が出てきます。
一つは、夏休み明けでうまく2学期に気持ちが移行できない子どもが出てくることです。
学校について行けないような子どもがクラスにいると、クラス運営がとても難しくなります。
また、1学期は様子見だった子どもたちが、徐々に慣れてきて一気に本性を現すようになります。
学級崩壊も2学期から起き始めると言われるので、この時期は要注意です。
教員がうつになるまで【実話に基づき作成】
では、実際に精神疾患で休んでしまった教員の例を紹介します。
30代女性
30代の独身の女性
小学校勤務のため、周りには女性教員が多いのですが、結婚して子どもの小さい人や、50代の人、入りたての20代前半の人が同僚です。
彼女はミドルリーダーとして、校長から非常に期待をされていました。
正確に言えば、ミドルリーダーとして、多くの仕事を任されていました。
1学年2クラスなのですか、新人と組まされます。
基本的に、同じ学年の先生の面倒は学年主任である彼女が見なければなりません。
毎日子どもが帰ると、新人の先生から質問を受けるので、丁寧に応えていました。
学年通信や他の仕事も、新人には荷が重いため彼女が全て請け負います。
ある時、上司の先生から新人の先生の授業を見てあげてほしいと言われ見たところ、指摘すべき箇所がいくつも見つかりました。
新人教育も彼女の役目なので、忙しい合間を縫って新人の授業も見ながらアドバイスを送ります。
学校内でもさまざまなプロジェクトがありますが、そのプロジェクトリーダーにも彼女は選ばれました。
学校全体で取り組む研究の先頭に立ち、他の教員にさまざまな提案をしていきます。
学校外の会議にもよく呼ばれるようになりました。
誰もが彼女を頼るようになりました。
気付けば毎晩夜遅くまで学校に居残り、家に帰っては疲れてそのまま眠る生活が続きます。
ある日、目が覚めるとベッドから全く立ち上がれなくなったのです。
おかしいと思い、体を起こそうとしますが、どうにも自由に動きません。
その日はベットから出ることもできずに休みをとりました。
その後も不調は続き、ついに心の病として休職を取るようになったのです。
結局、1年以上の休職ののち、彼女は復帰しましたが、もう担任の地位は与えられず、特別支援学級の補助に当たることになりました。
今も、担任をもつ目処は立っていません。
20代新任男性
20代新任男性
彼は、2年の講師歴を経て、正式採用され新しい学校に赴任しました。
周りの先生たちはとても優秀で、論文で表彰される人もいるなど、学校全体がとても熱心でした。
初めは、とにかくがむしゃらに周りの先輩についていきました。
定時は16時40分でしたが、定時を大幅に上回る20時から会議が行われることもザラです。
どの先生も22時以降まで働いているので、自分も先に帰るわけにはいきません。
とにかくがむしゃらに働き続けました。
しかし、2学期に入った頃から、体の疲れが寝ても全然取れなくなりました。
それどころか、ベットに入ってもなかなか寝付けません。
クラスの児童との関係は良好なのに、学校に行きたくないと思うことが増えてきました。
そして、ある日、非常に強い目眩と吐き気を催し、病院を受診したところ、精神的な病気を疑われ、約3ヶ月間休職することになりました。
この先生は、復帰後は他の先生のサポートもあり、なんとか担任に戻ることができました。
50代係長級男性
50代係長級男性
学校の係長級と言えば、校長、教頭の下の職員であり、教務主任や地域によっては校務主任と言われる職員です。
基本的には担任は持たずに、校長や教頭と共に学校の運営の中心になります。
校長からの指示を直接受ける立場であり、担任からも相談を受ける立場でもあります。
よく言う中間管理職です。。
この男性は、学校の環境整備を担当しており、この年に採用された児童一人の1タブレット支給のための準備に明け暮れていました。
教室中のWi-Fi環境の整備や、タブレット研修など。
新しい取り組みなので、周りにも聞く人もいない中、上司からは厳しい注文が飛びます。
さらに、世界を新型コロナウイルスが襲いました。
当然、学校内のコロナ対策も万全にしなければなりません。
この男性は学校のコロナ対策に当たっていましたが、ここでも校長がかなり厳しく指示をしました。
コロナ対策には終わりがありません。
来る日も来る日も厳しい指導を受けて、ついに男性は心を病んでしまいました。
その男性は1年以上休職しています。
いかがでしたでしょうか。
具体的な例を見ると、自分の周りにも同じような状況の方はたくさんいるのではないでしょうか。
教員は、チームで助け合いながらできる仕事ではありません。
それぞれが、孤独の中で戦っているのです。
今すぐに辞めたい方はこちらをご覧ください。
教員の負担を減らすための改善策
それでは、教員の精神的な負担を減らす方法は何かないでしょうか。
少しでも要領よくするための改善策をお伝えします。
クラスのお便りはなるべく減らす
先生の中には、学級通信を定期的に出している人がいます。
中には毎日お便りを出している人もいます。
しかし、お便りを出し続けることは大変な作業です。
周りには、定期的にお便りを出している先輩もいるかもしれません。
しかし、人は人と、割り切ってなるべく自分の負担を減らしましょう。
それこそ、これで自分が倒れてしまっては本末転倒です。
より良い環境を作るためにも、お便りは極力減らしましょう。
会議を減らす
これは、校長や教務主任の意向が大きいかもしれませんが、学校はいろいろと会議が多いものです。
特に、毎週全職員を集めての会議が1~2時間は行われるため大きな負担となります。
なかなか、一担任が声を上げるのも難しいかもしれませんが、会議をできるだけ減らすのはどの職場でも行われていることです。
教員の世界は、まだまだ古い体質が残っているので、負担軽減のためにも声を上げましょう。
早く帰る
教員は、夜遅くまで残っている人が多くいます。
どこの業界でも、他の人を置いて先に帰るのは気が引けるもの。
でも、毎日毎日遅くまで残っていては体が持ちません。
周りの人より先に帰る勇気を持ちましょう。
授業や宿題を頑張りすぎない
授業の準備にゴールはありません。
毎回完璧な授業を目指すのであれば、それこそ時間がいくらあっても足りないくらいです。
もちろん、子どものためにいい授業をしたいと考える気持ちはよくわかります。
しかし、要領のよい先生はうまく抜くところは抜いています。
自分のやれる範囲で授業をしているのです。
宿題も同じで、たくさん出せば出すほど、結局は先生の負担になります。
新しい学年が始まると、つい高い目標を掲げてしまいますが、できる範囲から始めることが大切です。
先生だって学校に行きたくない?休職をする先生の数が過去最高!?まとめ
教員の仕事はブラック企業と言われますが、その理由がおわかりいただけたでしょうか。
激動の変化に対応しながら、長時間勤務を常に一人で戦い続ける教員の負担は相当なものです。
これは、もはや一教員の技量やテクニックだけでどうにかなる問題ではありません。
少しでも社会が改善して、教員が伸び伸びと教壇に立てる日が来ることを願っています。
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