悲しい事実として、毎年少なくない数の子どもが亡くなっています。
事故や病気、時には事件に巻き込まれてしまったり、自ら命を絶ってしまうケースもあります。
子どもが亡くなった場合、学校は、その家族に対してはもちろんですが、
他の生徒・児童に対して対応を考えなければなりません。
しかし、自校に在校中の子どもが亡くなってしまうケースは滅多にあることではなく、
経験がある教師も多くありません。
この記事では、自校の児童・生徒が亡くなってしまった場合に、学校がどのような対応を
とるべきかを紹介します。
一つ対応を誤ると、家族や他の子どもの保護者とトラブルになりかねない重大な事案なので
慎重な対応が必要です。
子どもの死亡原因で多いものは
厚生労働省の年齢別の死亡原因(令和3年度)を見てみましょう。
全体では、
5~9歳の子どもが 330名
10~14歳の子どもが 441名
亡くなっています。
【5~9歳】死亡原因1位:悪性新生物〈腫瘍〉
死亡原因で最も多いのは、「悪性新生物〈腫瘍〉」です。
子どもの場合、小児ガンや白血病、骨肉腫などが多いです。
これらの場合は、相当期間入院した後に亡くなるケースがほとんどであり、
学校にも長期間通学できない状態のまま亡くなってしまいます。
知人の先生の学校でも白血病で亡くなってしまった児童がいましたが、
病気が発覚してから、即入院となり、病状が悪化するに伴い、院内学級に転校することとなりました。
この間、他の児童は、「入院している」としか聞かされておらず、
転校したという事実はあえて伝えられませんでした。
【5~9歳】死亡原因2位:不慮の事故
交通事故を始め、近年では水の事故も増えています。
これらの事故によるものの特徴は、昨日まで元気に登校していた子どもが
ある日突然亡くなってしまうため、親御さんはもちろん、周囲の同様も計り知れません。
交通事故の場合、登下校中であったのか、校区内で起きたものなのかで学校の対応は
大きく変わってきます。
いずれにしても、不慮の事故の大半は実名が報道されるため、しばらくの間、大きな話題となってしまうことがあります。
【5~9歳】死亡原因3位:先天奇形等
このケースは、通常学校に通学していないケースが大半だと思われますので、
養護学校等でない場合は、対応することはまれです。
【10~14歳】死亡原因1位:自殺
10~14歳の死亡原因で最も多いものは「自殺」です。
この年齢は、多感な時期であり、それに伴っていじめの件数も増加します。
自殺は、非常にショッキングな出来事であるとともに、学校や他の児童・生徒が
関わっているケースも多く、非常に厳しい対応が求められます。
【10~14歳】死亡原因2位:悪性新生物〈腫瘍〉
やはり、この年代においてもガン等によるものが多くなっています。
特に骨肉腫で亡くなるケースも多くあります。
【10~14歳】死亡原因3位:不慮の事故
中学生になると自転車通学になるなど、子どもの生活範囲が変わってきます。
それに伴い、不慮の事故によるものも依然として多くなります。
厚生労働省による「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/gaikyouR3.pdf
学校の対応は事案によって異なる
不測のことが起きた場合、「対応マニュアルはないのか」ということが問題となることがあります。
ただ、子どもが亡くなってしまうことは、その家族はもちろん、他の子どもにとっても
衝撃が極めて大きいものです。
対応マニュアル通り杓子定規に対応すればうまくいくというものではありません。
だからこそ学校の先生は、家族や他の子どもの様子を見ながら、
柔軟に対応することが求められるのです。
全児童・生徒への対応
同じ学校の児童・生徒が亡くなったことは、他の子どもたちに大きなショックと動揺を与えます。
仲がよかった子はもちろんですが、これまで身近な死を体験したことのない子どもにとっても
大変ショックなできごとです。
これまで当り前のようにみんなと生活してきた日常が、ある日突然人生が終わってしまうなんて
誰も想像もしていないのです。
そういった動揺を抑えるためにも、一般的には学校全体で緊急集会を行い、全員に説明があります。
経緯の説明はもちろんですが、今後、学校が全力を挙げて子どもたちをフォローしていくことが伝えられます。
事実を聞いて泣き出す子どももいますが、全体集会の中で先生から事実を伝えられ、今後もフォローしてくれるということがわかるだけでも、幾分か子どもの心は救われるものです。
クラスメートへの対応
より衝撃と悲しみが大きいのがクラスメートです。
毎日同じ教室で過ごしていた子どもが亡くなってしまい、誰もが大きな悲しみを背負うことになります。
仲がよい子どももいたでしょうし、幼稚園の頃からの付き合いだという子もいます。
子どもの死は、他の子の今後の人生観を変えてしまうほどショックなことなのです。
担任の先生は、しばらくの間、子どもたちに変化がないか目を見張らせなければなりません。
心に変調を来す子どもや、クラス運営でのトラブルなど様々な問題が噴出する危険性があるためです。
スクールカウンセラー
学校だけでは対応がしきれないと判断した場合には、スクールカウンセラーが配置されます。
子どもの心は非常に不安定になり、少しのことでトラブルが起きたり、学校に来れなくなったりすることもあります。
スクールカウンセラーは臨床心理士が多く、先生だけでは対応できない複雑な事例などに的確に対応できます。
子どもの死についての対応は、多くの先生にとって初めてのことで対応に苦慮することも十分想定できるため、学校としてはできる限り早い段階でスクールカウンセラーの要請を検討すべきです。
スクールカウンセラーとは
近年のいじめの深刻化や不登校児童生徒の増加など、児童生徒の心の在り様と関わる様々な問題が生じていることを背景として、児童生徒や保護者の抱える悩みを受け止め、学校におけるカウンセリング機能の充実を図るため、臨床心理に専門的な知識・経験を有する学校外の専門家を積極的に活用する必要が生じてきた。
このため、文部科学省では、平成7年度から、「心の専門家」として臨床心理士などをスクールカウンセラーとして全国に配置。
<文部科学省>
保護者への説明
場合によっては保護者への説明が必要なケースもあります。
例えば、登下校中に交通事故に遭った場合、その後の登下校に恐怖を感じる子どもや保護者の方も
出てくる可能性があります。
保護者としては不安材料は無くならない限り、通学班での登下校を了承しない可能性があります。
また、子どもの心の安全についても不安に思う保護者も出てくるので、個別面談などの対応が必要になることがあります。
そして何より、いじめによる自殺が起きてしまった場合は、緊急の保護者会を開催し、事の経緯を説明する必要が出てきます。
いずれにしても、相当に難しい対応となりますが、教育委員会と相談しながらも、決して嘘がないような誠実な対応をしなければなりません。
子どもや保護者が死亡の事実を知らない場合
子どもが亡くなったという事実は、多くの場合、周りの人はすぐに情報を知ることになります。
当然、教室にいなくなるので同じクラスの子どもは気付くことになりますし、
通学班や子ども会など近所でも何らかのコミュニティに属していますので、
周りの人はすぐに知ることとなります。
しかし、中には周りの人が事実を知らないケースもあり、その場合は対応に注意が必要です。
この場合、学校側は保護者の意向を最大限に汲んだ対応をしなければなりません。
死亡した子どもが不登校の場合
死亡した子どもが不登校の場合、他の子どもたちはその事実を知らない可能性があります。
昨日まで登校していた子どもが亡くなった場合は、ずっと登校してこないので、当然他の子どもが疑問に思って、学校側も隠すことはできませんが、不登校の場合は、保護者や学校側からの話がなければ気付かないものです。
死亡の事実を伏せたまま次の学年に進学する際に除籍したとしても、恐らくは誰も気付かない可能性が高いです。
この場合、保護者と相談して対応を決めますが、他の子どもに知らされることがないことが多いです。
長期間入院しており学校に行っていない場合
不登校と同様に、長期間入院している場合も他の子どもたちは気付かないことが多いです。
回復の見込みが少ない場合は、病院の院内学級へ転校するケースもあり、
知らないうちに除籍されていることもあります。
正式には在籍していないのですが、これまでお世話になった学校であり友達もいることもあるため、
学校から事実が告げられる可能性もあります。
他の理由で保護者が事実を伏せたい場合
最後に、自殺や虐待など、複雑な事情がからんでいる場合です。
虐待による死であれば、マスコミにより実名が出る可能性がありますが、
自殺については匿名となります。
自殺は残された家族をさらに苦しめることになり、好奇の目にさらされる危険性もあります。
また、同じ学校にきょうだいが通っている可能性もあるため、そのような事実を伝えることはできるだけ避けたいという保護者の心理も働きます。
いずれのケースも、まずは保護者の意向を最大限尊重しながら、ほかの子どもたちのフォローにも配慮するという非常に難しい舵取りをしなければなりません。
これらの難局には学校全体が一丸となって取り組まなければならないので、
校長先生には強いリーダーシップが必要となります。
まとめ
子どもが亡くなってしまうことは、とてもショッキングな出来事です。
残された家族やきょうだいのケアが必要であることはもちろん、
他の児童・生徒への説明やケアも学校はしていかなければなりません。
状況によって家族とトラブルになる可能性もある事案であり、
対応は非常に難しいですが、残された家族や児童・生徒たちが
一日も早く平穏な生活が始められることを願っています。
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